悪魔のいる教室
「ぜってぇ無くすなよ」

「……自分で渡せばいいのに」


お札をポケットにしまいながら、不貞腐れ気味にポツリと呟いてみた。


こんな責任重大な任務を私なんかに任せないでほしい。

しかもこれから放課後まで『私のポケットに諭吉様がいらっしゃる』って緊張し続けなきゃなんないし。

あぁ、気が遠くなる……。


「俺じゃ受け取んねぇんだよ、あいつ」


悪魔はケータイをいじりながら、当然と言えば当然の言葉を口にした。


そりゃ……ねぇ?
後輩だし。

ってか、


「私から渡しても受け取らないと思うんだけど、タツ兄……」

「意地でも受け取らせろ」

「えぇ?ってか、こんな大金じゃなくても……」


パタン。

私の声にかぶせるように悪魔はケータイを閉じると、鞄を持って立ち上がった。


「俺は」


なんとなく、その横顔が切なげで。

私は目が離せなかった。


「あいつの重荷になりたくねぇ」


そう言い残し、言い逃げするかのように教室を出ていった。


けど、悪魔の消えた扉を見つめたまま呆然としてる私には、どっちみち何も言えなかったんだろう。


……重荷?

悪魔の口から発された言葉は、いまいちピンとこなかった。
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