悪魔は甘く微笑んで【恋人は魔王様 番外編◇ドリーム小説】
3.scherzoso
■scherzoso(スケルツォーソ『おどけた、滑稽な、諧謔的な』)

練習が終わった私は、田沢先生に声を掛けようと、音楽準備室を覗いてみた。
いつものことなので、ノックなんてしない。

が。
音楽室のドアと、教師の居る間に立ててあるついたての向こうに見えた二つのシルエットにどきりとした。

……今、キス、したよね?

二つのシルエットがゆっくり重なって、離れていく。

私は目が釘付けになった一瞬後、何も考えずに音楽準備室から飛び出していた。
もちろん、静かにドアを閉めるのは忘れなかった。

あのシルエットから判断すれば、一人はもちろん、田沢先生。
そして、相手は。
この春に臨採で来た新山 沙織(にいやま さおり)先生なんじゃないかと、思うんだけど。
いつも長い髪を一つに纏め上げている新山先生のことを思い出す。
気が強そうなことを隠さない美人だ。
年齢不詳なんていわれているけど、多分、三十代半ば。

メイクのせいか、グラマラスな身体つきのせいか。
雌豹だなんて渾名までついていた、はず。

そっかぁ、田沢先生ってああいうのが好みだったのか。

長いこと、好きでいたはずなのに、あまりショックも受けてない自分がなんだかひどく可笑しい。

きっと、さっき。
突然、音楽室に現れてあっという間に消えていった、あの人のせいに違いなかった。
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