泡姫物語
ひとりで美容院へ向かうと阿部さんが入り口で待っていた。

「お待ちしていましたよ。浴衣で来るのは大変だったでしょう。さぁどうぞ」

席へ案内されると鏡越しに阿部さんがじっと私を見つめていた。

「その浴衣、友紀さんにピッタリですね。あまり流行にとらわれていないしそれでいて人目を引くデザイン性。友紀さんの人柄を表しているようですね」

「そうですか?よかった!阿部さんがそう言ってくれるなら安心だわ」

それを聞いた阿部さんが少しニヤリとした表情で髪を束ねる。

「例の彼とデートなんですね。大事な日だから僕もヘアメイク失敗できないな」

「やっぱりバレちゃいましたね。そうなんです。可愛くしてくださいね」

「わかりました!任せてください。友紀さんの恋愛成就を願って思いっきり可愛くします」

阿部さんの手がめまぐるしく動き、私の髪型が形成されていく。
あっという間にきちんとしたまとめ髪が完成した。

「少しだけ後れ毛を流してセクシーな友紀さんらしさを演出してみました。如何でしょうか」

鏡に映る自分の姿はまるで雑誌の浴衣特集ページのようだった。

「うわぁ。すごい!やっぱり頼んでよかったです。ありがとうございます」

「とてもよく似合っていますよ。浴衣も髪型も完璧ですね」

出口まで見送ってもらい、もう一度お礼を言うと美容院を後にした。
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