あの時に戻れたら【短編】

家族の時間

部屋に入ると窓から広がる風景は少し紅葉が始まった森だった。山の上の方は少し気温が低いせいか赤や黄色や緑のコントラストがとても綺麗だった。大きな池には鯉が泳いでいるけど、水面には落ち葉がたくさん降り積もって、鯉が泳ぐたびに葉っぱがゆらゆら揺れてとても綺麗だった。


小さな頃来た時はもう少し狭い部屋で、季節も夏だったから少し感じが違った。



もう1人の私はお母さんと肩を並べて窓の外を眺めていた。お父さんは私をチラッと見ると顎で窓の方へ行けって言ってくる。別にもう1人の私が見た景色は、私の記憶になるんだから一緒なのにお父さんは行かせた。そして、渉も窓辺に連れて行くと、後ろから4人が並んだ姿を腕を組んで眺めていた。


きっとお父さんは、この光景を目に焼き付けてるんだと思う。家族が肩を並べてる光景に自分も入ればいいのに、お父さんはただただ見つめていた。



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