騒音に耳を塞いで [ss]
 凪は、本当に消えた。

 変わりに彼女の父が手術して寿命を延ばした。

 調べてみるとやはりそうだった。凪の心臓は移植されたのだ。凪の実母は父に奴隷として買われ、凪を産んで殺されていた。彼女の心臓しか要らなかったのだ。父は昔から心臓の弁が弱く、血を逆流させたといっては入退院を繰り返していた。それでもよく、彼女の住む別館にもやってきて「健康か」と凪に訊ねていたのだ。珍しい血液型のため、ドナーを探すことさえ難しくそれでこの方法を考え付いたのだと云う。凪は最初から父の臓器を作る為の生きた媒体だったのだ。

「お嬢様はどこですか?」
「凪は死んだ。お前も諦めて仕事に励め」
「生きているのでしょう?」

 唇の端を更に上げて云う。

「あなたの心臓と」

fin.
< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop