†クローバー† ~4人の小さな恋物語~
片想い
~ 真奈実side ~


私は、何も持ってはいない。

 ただ、君が好きだという、その気持ちだけ。



 桜の木々が蕾をつけているものの、外はまだ少し肌寒かった。

 他の卒業生たちは、私たちを残し、すでに門の方へ移動している。

 そういえば、みんなでどこかに行くって言ってたっけ。


 断ったことはいちいち覚えてないしな。

 思いながら、目の前の幼なじみを見つめた。


 生まれつき茶髪っぽい彼の髪は風に揺れ、どこかはかなく見える。

 しきりに動く瞳は、明らかに動揺していた。



「…ごめん」


 悠は、呟くように答えた。


 ああ、やっぱりね。

 不思議と、悲しみよりも先に、その思いがわきあがった。


「私、言いたかっただけだから、気にしないで」


「でも」


「いいの。私は、この気持ちにケジメをつけたかっただけ。ほら、今日で中学卒業でしょ」


 悠には何も言わせない。

 優しい悠のことだから、何を言いたいのか分かっている。


『真奈実のことは、嫌いじゃない。でも…』


 と、彼は必ずそう言うのだろう。


 それを思うと、さすがに悲しくなってくる。

 結局、自分は『幼なじみ』以外の何物にもなることはできなかったんだ。


「それじゃ、本当にそれだけだから。ほら、向こうでみんなが悠を待ってるよ」


 無理やりに笑みを作って、左手で彼の体を押す。

 悠の顔にもまた、悲しみが宿った。


 そんな顔、させたかったわけじゃないのに。


 けれどすぐに、悠は笑顔を取り戻した。かなり無理やりだったけど。


「またな」


 ただ一言そう言い残し、走り去る。

 お別れではなく、また会おうと言ってくれたことが、たまらなくうれしい。


 悠の背中は、いつも以上にたくましく見えた。


 今すぐにでも、その背中に手を伸ばしたい。

 抱きついて、もう2度と離さないようにしたい。


 視界がぼやけ始めて、何もかもが不透明になっていく。


「悠…」


 悠の背中が完全に見えなくなったとき、涙はぼろぼろとあふれだした。
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