もう一度 笑って
卒業式は淡々と過ぎて行った

あたしには感動とか、悲しさとかそんなものは何もなかった

とくに深い思い出とかないし

とりあえず学校に行って、クラスメートと適当に毎日を過ごしていただけ

卒業式が終わって、教室に戻って最後に担任と会話をしたところで

あたしは父親によって途中退場をさせられた

他のヤツらと会話する時間すら、与えてもらえなかった

教室を出るとき、目が合ったのは……

朝倉だった

な…なに?

朝倉が真顔であたしの顔を見ていた

あいつ…痩せた?
頬がコケているし、顔色だって悪い

智世に血をあげすぎたの?

貧乏だから、食べるモノに困っているとか?

父親に引っ張られる私に向かって、朝倉の口がゆっくりと動いた

『に』

に?

『げ』

け? 

『る』

る?

『な』

な?

『にげるな』?

さらに朝倉の口が動いた

『たすけてやる』

朝倉の口の端が持ち上がったところで、私は廊下に出て、朝倉の顔が見えなくなった

『逃げるな
助けてやる』

どういう意味だろうか?

朝倉も見合いの話を知っているのだろうか?

智世との会話を盗み聞きして知ったかもしれない
もしかしたら智世から聞いているのかもしれない

『逃げるな』か

無理だ
父親が許さない

あたしを仕事のために使う

会社拡大のために女の私を、利用するんだ

貧乏な朝倉にはわからないよ
あたしの気持ちなんて


一生、わからない

それに助けられないよ
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