もう一度 笑って
「早く、乗れよ」

車の中から朝倉の声が聞こえる

身体の向きを変えると、図体の大きな男が私の顔を見て、くいっと頭を動かして

(早く乗れ)と言われているようだ

「何よ! 全くっ
全然、意味がわからないじゃないのよ」

あたしはブツブツと文句を言いながら、車に乗り込む

後部座席に朝倉と並んで座る

助手席にボディーガードの一人が乗り込み、サングラスをかけた

運転手の男は最初から乗っていたようで、どこかに携帯で連絡すると、エンジンをかけた

「な…何なのよ」

あたしは隣にいる朝倉の顔を睨んだ

「実家に帰った」

「はあ?
だって…あんたは智世の弟なんでしょ?
智世んちってこんなに金持ちだった?」

「そっちの家じゃない」

朝倉が寂しそうに微笑んだ

スーツのポケットから携帯を出すと、朝倉がどこかに電話をし始めた

「あ…もしもし?
俺に1時間だけフリーの時間をくれよ
埋め合わせは必ずするから」

それだけ言うと、携帯を切った

そして電源まで落とすと、あたしの顔を見つめた
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