出会う確率の方程式
遠くの方で、夕陽が沈んでいく。

その最後の輝きがあたしを照らし、影が大きく、細くなっていく。

「やっと…君と話す勇気ができたから…」

勇気…。

彼の名前と同じ…言葉。

その意味するものもわからずに、

あたしは彼の手を受け入れようとしていた。

そうしなければいけないように、そうしなければ…。


「ずっと決断できなかった…」

彼は微笑みながら、呟いた。

彼の目に涙が滲む。

どうして?

彼はまるで、あたしを昔から知っているような感じだった。

その言葉も温かい。

―知っていた。いや、違う!

あたしは、昨日まで彼を知らなかった。
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