出会う確率の方程式
少しだけ、強く風が吹き抜けた。

あたしの髪が軽く舞い上がり――あたしの心まで、舞い上がりそうになった。

風が止むと、静けさがあたしと彼を包み込んだ。

何も言えなくなったあたしを、彼はただただ見つめていた。

そして、おもむろに歩きだした。あたしに向かって。

彼が近づいている――それだけで、なぜか心がざわめいた。


もう少し、もう少し、あたしの心のどこかが、こう叫んでいた。

「あ…」

やっと出た声が、全然言葉にならない。

彼は…あたしに向けて、そっと手を差し伸べた。

「いこう…」

彼の囁きに、あたしは心の中でこたえた。

(どこへ?)
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