君と、○○のない物語
公鳥は一瞬眉を潜めて、こちらに歩いてきた。

「…あいつの声も聞こえるんだ」

「ん、あー…あれどういうこと。」

「知らねえよ。金魚もこの猫も何年か前からいきなりこうなって、俺しか見えねえから理由なんか誰にも聞けないし、分かりっこないんだもん。あ、猫は言葉だけ分かんないのか。姿は誰にでも見えるよ。」

「…へえ…」

ますますベタなファンタジーだ。

とりあえず二人と一匹は日陰に移動して座り込んだ。

猫は相変わらず公鳥に寄り付いている。


「…なあ、公鳥は金魚や猫の事、何が原因か知ってる?」

「知るか。つか、お前知りたいのかよ。」

「え?そりゃあ…当たり前じゃん?こんな経験なかなか無いって。」

「そうだけどー。」

「俺、今なんか嬉しいよ。」

もともと嫌だった引っ越し、悪くはないからいいか。と思えて安心してたけれど、思いがけぬ価値があったのだ。

この町を凄く好きになれそうな、そんな気がしてきた。

「…お前ってなんつーか…あれだな。」

「何だよ。」

「もっと冷めた奴だと思ってた。」

「公鳥に言われたくないような…。公鳥こそ、もっと無口だと思ってたけど。」

「…まあ、こんなに喋ったのは久々。」

おそらく、学校に行かないから会話の相手がいないのだろう。

親はどうか朔には分からないが、クラスメイトとは疎遠そうだし、猫とばかり会話しているのはある意味寂しい。

「…少し喋りすぎた。」

「え?何言った今?」

「何でもない。」

それだけ言って黙ってしまった公鳥は猫の肉球をぷにぷにと触っている。

…俺も触りたい。と、朔太郎は率直に思った。
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