君と、○○のない物語

その時に朔太郎を一瞥していたが、ふん、と鼻を鳴らしてすぐに目を逸らされてしまった。

「…大月くん、夏樹と仲良いの?」

「そういう訳では…。夏樹っていうんだ、あいつ。」

「そう、公鳥夏樹。」

こう書くんだよ、と茅原は地面に屈んで、丁度落ちていた枝で文字を綴った。

縦書きで公鳥、と書いてあるせいか、ぶっちゃけハム鳥に見えて仕方ないのだが。

「なんで今から登校すんの…?」

「あいつ滅多に来ないんだ。たまにプリントとか取りに来るだけ。」

不登校という事だろうか。

そういえばクラスにも二~三人いたような気がする。

クラスメートから聞いたところ、どのクラスにも何人か不登校がいるようで、こういう所は何処の学校でも変わらないんだなあと不要な感心をした覚えがある。


立ち上がった茅原は地面に書いた公鳥の名を足で消して、改まって朔太郎を見る。

「大月くんって、夏樹と仲良くなれると思うよ。」

「そう…?」

「うん。」

その言葉が急で脈絡がなくて、朔太郎は大した返事が返せなかった。

確かにまだ、そこまで気の許せる人間はいないけれど。

「じゃね。また明日。」

茅原はにこりと笑って朔太郎に手を振り、別れを告げる。


茅原が行った方向に朔太郎も帰るのだけれど、なんだか無性に茅原の後ろ姿を眺めていたくなって、姿が見えなくなるまで見送ってしまった。
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