君と、○○のない物語
日曜日の朝、朔太郎はごみ出しのためにゴミ袋を両手に引っ提げて自宅の裏の道を歩いていた。
まだまだ早朝なので人はおらず、少し冷たい風は朔太郎にのみ吹き付ける。
ここは車道に面しているというのに、どうしてこんなに何も通らないのか。
朝だからかも知れないが、本当にのんびりした町だな。と改めて感心した。
ゴミ捨て場にゴミ袋を押し込んで、家に戻ろうとした、その時。
下からにゃあ、と媚びるような猫の声。
足元からのそれに気付いて見下ろしてみると、茶色の猫が朔太郎を不遜な顔付きで見上げていた。
野良猫のようなのに、ここまで人に警戒しないなんて暢気なやつだ。
その猫に可愛いげはないが、それなりに動物が好きな朔太郎はしゃがんで猫を撫でようとした。
「ガキ扱いするなよ小僧が。」
「………ん?」
足元から聞こえてくるのは
「…小僧は俺の言葉がわかるのか。」
「………ん?」
いやいやいや。
今明らかにこの猫の口が動いてしっかりと日本語を発音していたような。
「随分と変わった奴だな。言葉が分かるのは夏樹だけではなかったのか。」
…金魚と言い、この猫と言い、どうしてこの町の動物はこんなにもフリーダムなのだろうか。
朔太郎は驚く気も起きず、むしろ、自分がおかしいのか?と思った。
「…公鳥を知ってんの?」
「よく向こうの空き地におるわ。」
空き地、と言われてもピンとこなく、朔太郎が首を傾げると猫はピョイと身を跳ねさせて歩み出す。
数メートルで振り返り、「着いてくれば分かるさ。」と言った。