桃色ドクター
「ごめんね、香織。あんなことになってしまって。まさか3人が顔を合わせるなんて」
仁ノ介は、優しく私の頬に手を当てた。
「ドラマみたいで面白かった!」
これは本音。
ちょっと面白かった。
仁ノ介は、これで婚約者の人も離れていくだろうと言った。
私は少し不安だったけど、過ぎたことを後悔しても仕方がないので、これでよかったんだと思うことにした。
「今日は、大変だったんだよ」
倉庫の床に腰かけ、仁ノ介が話し始めた。
今日、診療時間が過ぎた頃、突然婚約者だった由美子さんが病院にやってきた。
由美子さんは、仁ノ介の新しい恋人が病院の中にいると思い込んでいたようで、受付嬢に仁ノ介との関係を聞いたらしい。
何も知らない受付嬢は、由美子さんを仁ノ介のファンだと勘違いし、うそを言った。
『もうずっと前から私の彼氏なんです』と。
信じた由美子さんは、仕事を終えた仁ノ介に詰め寄り、病院の中にずっと彼女がいたなんてひどい!と泣き出した。
あの女をやめさせて、私が受付をするなどと言い出した由美子さん。
事情を知った受付嬢は、さっきはうそを言いました、と謝ったが由美子さんは興奮したままだった。
仁ノ介は、受付嬢が自分のことを好きだなんて知らずに、迷惑をかけてすまないと謝って、由美子さんを車で待たせることにした。
で、私が病院に来たってわけ。