粛清者-新撰組暗殺録-
そんな病に冒されながらも、まだ笑みを浮かべていられるとは…。

「沖田様…もう生きる事を諦めてしまったの…?」

秩はそう言って堪えきれず涙をこぼす。

…総司と出逢ってから、秩は涙もろくなった。

死地に笑って身を投じる総司を見ていると、その若さでありながら何か儚さのようなものを感じて、悲しくなってしまう。

秩にしてみればそれだけで総司は不幸な境遇に思えてしまうのに、この上更に労咳が彼の体を蝕んでいるとは…。

まだ元服して五年かそこらしか生きていない若い総司が、何故こんなにも苦しまねばならぬのか。

そう思うと不憫で、悲しくてならなかった。

言い換えれば、かつては恨みさえした新撰組組長の総司にこれ程の想いを抱いている秩は、確実に総司に恋心を抱いていた。

「やだなあ秩さん、泣かないで下さい。秩さんに泣かれたら、僕の方が困ってしまいます」

総司はそう言って秩の肩に手を置く。

「労咳にはかかりましたけど、僕は京洛にその名を轟かせる鬼の新撰組一番隊組長です…今まで数多の修羅場を潜った僕が、病なんかで死にはしませんよ」

「沖田様…」

悲しくなって、総司の胸に寄り添う秩。

「僕に勝負を挑んでいた頃のあのお転婆は、一隊どこへ消えてしまったんです?」

「意地悪を仰らないで下さい…」


< 65 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop