粛清者-新撰組暗殺録-
冷めた風の吹く中、総司と秩は抱き合っていた。

いつまでも、いつまでも…。

…だがこの時、総司は気づいていなかった。

二人の様子を物陰から窺う不審な影がいた事に…。

影は気づかれぬようにその場を離れ、己の立てた計画の事を思い浮かべては一人薄く笑う。

…影の名は、酒井兵庫といった。

新撰組隊士で、池田屋事件に参加して褒賞金十五両を受けている。

即ちあの事件で活躍した、なかなかの剣腕の持ち主という事である。

しかしあの事件以降、酒井は少々慢心していた。

道を歩けば人々は道を譲り、飲みに行けば天下の新撰組から金は取れぬと頭を下げられる。

新撰組というだけで、少々の横暴は許された。

故に自分は何をしても許されると錯覚していた。

たとえ総司の恋人である秩に、夜這いをかけたとしても…。

勿論、そんな事が許される筈もない。

一人影でほくそ笑む酒井を監視する、更なる闇からの眼…。

(妄想のうちは笑って見過ごせたが…行動に移すのならば話は別だな…)

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