粛清者-新撰組暗殺録-
それだけ言い含めておいたにもかかわらず、翌日の屯所に酒井の姿はなかった。

処罰を恐れて逃亡したらしい。

「おとなしく処罰を受ければ命だけは助かったものを…」

永倉は冷静な表情のまま言う。

…酒井兵庫逃亡に対し、近藤局長は一番隊、二番隊に追討の命令を発した。

早速総司と永倉は隊士達を率いて屯所を出発する。

「やれやれ…」

屯所の門で総司達を見送りながら、斎藤は腕組みして薄く笑った。

…この一年で、一体何人の隊士がこうして粛清されていっただろう。

同じ新撰組の仲間でありながら、次々と殺されていく男達。

そしてその暗殺を、薄笑みすら浮かべて眺めている斎藤。

この幕末という時代に新撰組という組織は、明らかに近藤勇を狂信する殺人集団として確立されつつあった。

近藤の意にそぐわぬ者は皆殺害。

そんな狂った掟の中、総司も斎藤も永倉も生きていた。

狂った思想こそが真実だった、血と闇と刀だけが全ての時代。

だが時代は既に混迷を極めており、もう誰の力でもこの狂った流れを止める事はできなかった。

幕府か志士か、どちらかが根絶やしにされるまでこの流れは止められない。

「いつの時代も動乱とはこういうものか…」

斎藤が自嘲気味に呟いた。


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