粛清者-新撰組暗殺録-
山南が逃亡して、既に丸一日が経過しようとしていた。

「く…つぅっ…」

大津の宿に逃げ込んだ山南は、宿の一室で傷の応急手当をしながら考えていた。

逃亡続行か、それとも投降か。

どちらにしろ、自分の命は長くはもたない。

よくて新撰組に捕らえられて自刃、このまま逃げ続けてもいずれは捕まり斬殺される運命…。

ならば行ける所まで行ってみるか…。

宿の主人に迷惑がかかる事を嫌い、山南は傷の処置を済ませ次第出発した。

その宿を出た矢先。

「!」

山南は、段だら模様の羽織を着た若き侍と鉢合わせる。

…新撰組一番隊組長、沖田総司。

山南が今一番会いたくもあり、会いたくもなかった男だった。

「…手ひどく…やられましたね…」

総司が静かに言う。

「ああ…斎藤君も永倉君も…上洛した頃より更に腕を上げていた。近藤局長が組長に選ぶ訳だ…身を以って味わわされたよ…」

山南は微かな笑みをこぼした。

その表情を見ればわかる。

彼にもう逃亡の意思はなかった。

あるとすれば恐らく…。

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