粛清者-新撰組暗殺録-
俺もまだまだだな。

そう言いたげな表情を浮かべて、斎藤は娘に名乗った。

「!」

名前を聞きだした途端、娘は弾けるような笑顔を見せる。

「斎藤様!斎藤一様ですね?」

「……」

やはりこの娘は間者でも密偵でもない。

もし任務を授かっているのならば、達成直後にこれ程自分の感情を露わにする訳がない。

本当の間者ならば、この時点で斎藤が斬り伏せている。

娘のはしゃぎ様を見ながら、彼は心の底からそんな事を思っていた。

同時に娘が間者でなかった事を、心のどこかで安心していた。

如何に斎藤とて、女子供を刀の錆にするのは気が引ける。

それにしても。

(調子の狂う女だ…)

斎藤は娘の顔を見ながら溜息をつく。

…この調子の狂う女が、やがては斎藤の運命を大きく変える事になるなどとは、この時の斎藤自身、まだ知る由もなかったのである…。

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