粛清者-新撰組暗殺録-
慶応二年。

幕末の動乱の激化は留まる所を知らず、日に日に激しさを増していた。

新撰組も京洛を駆け、隊士達の刀が血に染まらない日はなかった。

抜けば誰かを斬り、構えれば何者かを貫く。

血と刀に彩られた、凄惨な戦の日々…。

そんな毎日を送る新撰組三番隊組長、斎藤一にも、心休まる一時はあった。

もっとも彼自身は、心が休まっている事に気づいてはいないのだが…。

「斎藤様、今日はお弁当を作ってきたんです。召し上がっていただけますか?」

屯所の中で、男所帯の新撰組らしからぬ透き通ったよく通る声が聞こえる。

…声の主は斎藤一目当てでやってきた娘だった。

数日前の志士狩りの際に人質にとられたところを斎藤が助けて以来、娘は妙に懐いてしまっていた。

屯所では沖田総司と双璧をなす剣鬼、斎藤一に女ができた、しかも斎藤には勿体無いほどの別嬪だともっぱらの噂になっている。


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