最後に初めまして。
横に並んだ古都の目をみつめた薫はため息を吐きながらまた景色に視線を移した。


『貴女のその瞳は真直ぐに相手を見つめるのね。その瞳が登の心を開いたのかしら?私には出来ないわね。』


そう伝え立ち去ろうとした時に古都が薫を引き止めた。


『薫さんは登の事を本当に愛してだんですね。それは今でも…。』


薫は振り向きもせずに古都に答えた。


『どうかしらね。今日ここに来たのも登にじゃなくて貴女の顔を見に来ただけよ。ただ、私に出来なかった事…貴女なら出来るわきっと。登に伝えといて貴女にフラれて泣きそうなら遊んであげるわ。じゃあね。』


薫は片手を上げ、甲高いヒールの音だけを残して古都の前を去って行った。

薫が振返らなかった理由はその声から古都には分かっていた。

古都はこの時心に強く決めていた。

遠くを眺めていた瞳の奥にその決心が薫には見えていたのかも知れなかった。

古都が病室に戻るとソワソワと落ち着きのない登が待ちわびていた。


「か、…薫は?」

『薫さんは帰ったわ。』

「帰った?何か言われたのか?」

『登に…じゃあね。って言ってたよ。』

「違う…古都にだよ。」

『女の子同士の話だから…秘密。えへっ。』


俺は呆れかえって古都に背中を向ける様にスネてみた。

いつもの様に秘密と言った古都の顔は前とは少し違っていたのが分かってからだった。
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