ベイビーベイビーベイビー
 

 彰人に声を掛けられた真理江は、

「いえ、特に仕事じゃないんですけど――…
 小島さんは、内藤さんにご用ですか?」

と、あまり感情の込められていない言葉を口にしながら、キョロキョロと落ち着かない様子であった。


 彰人は、

「ああ、内藤の奴、本当に世話が焼けるっていうか……」

と、“仕事でここに来ているわけじゃない”のであれば、何とか真理江の足を止め、話を続けようと試みた。
 

 しかし粘る彰人を振り切るように、今日の真理江は、

「相変わらず仲がいいですね!
 じゃあ、また」

と頭を下げると、足を速め、とっととそのフロアの更に奥へと進んで行ってしまった。


 彰人の、

「あ、小林さん――…」

という呼びかけは、空中を漂って虚しく消えた。


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