ベイビーベイビーベイビー
とはいえ祥吾と過ごした時間の全てが無駄だったとは、真理江には思えなかった。
何処かに出掛けることもなく、部屋で過ごすばかりだったけれど、祥吾と何気なく過ごす時間に、真理江は幸せを感じていたはずだった。
真理江は三年もの間、祥吾だけを見てきた。
だから祥吾が子どものように弱いことも、十分に分かっている。
例えば――本当の事を告げられず、それに苦しみ、どうすることもできずに逃げ出したのだとしたら?
真理江は祥吾を許し、解放してあげることが真の優しさであり、神から与えられた試練なのだとしたら?
真実が聞けない今となっては、真理江の心を様々な思いが去来するが、――だとしたら、
「私にはちょっと荷が重過ぎるわ」
真理江はしかめっ面をして、そう天を仰ぐしかなかった。
ひとたび乱れてしまった心の整理は、ひとつひとつ丁寧に、ゆっくりと片付けるに限る。
真理江は今その只中にあって、新たな一歩を踏み出すには、もう少しの時間と、何かきっかけが必要であった。