[短編集]恋花
マナはしきりに、セーラー服の胸ポケットを気にする。
おそらく、携帯電話が隠れているのだろう。
状況から察して、そのうち『アドレスを交換しよう』と言い出すのは目に見えていた。
マナが嫌いなわけじゃない。
マナに恨みがあるわけでもないし、もし教えて、と言われても、断る理由はない。
――けれど、なぜか、頭の中に、“どうしよう…”と葛藤する自分がいた。
なにもかもを1からやり直したくて、誰一人選ばなかった隣町の高校に進学することを決めたのに、中学時代を引きずってしまうのではないか。