[短編集]恋花

マナはしきりに、セーラー服の胸ポケットを気にする。

おそらく、携帯電話が隠れているのだろう。

状況から察して、そのうち『アドレスを交換しよう』と言い出すのは目に見えていた。

マナが嫌いなわけじゃない。

マナに恨みがあるわけでもないし、もし教えて、と言われても、断る理由はない。

――けれど、なぜか、頭の中に、“どうしよう…”と葛藤する自分がいた。

なにもかもを1からやり直したくて、誰一人選ばなかった隣町の高校に進学することを決めたのに、中学時代を引きずってしまうのではないか。

< 29 / 80 >

この作品をシェア

pagetop