[短編集]恋花
「…うん。」
誰にも視線を向けず、たった一言、そうつぶやいた。
「…もう、行く?」
お母さんが、さりげなく言う。
強がりだった。
今渡せなくてもいつか渡せる日が来るかもしれない。
そんな風に、
卒業式の日。
私は、ラブレターを渡さなかった。
後悔なんてとっくの昔にしてる。
10年間。
5歳の頃から、私は、アキが好きだった。
アキだけを見ていた。
渡さなかったラブレターを胸に、その日は、お母さんと2人で卒業祝いに外食に行った。