メトロノーム 【完】
ボロボロとこぼれる涙を、頬を包んだままのこうちゃんの親指が拭う。

泣くな、そう言ってやんわり抱きしめられる。



「俺は、七海を救ってやれないよ。」

ぎゅっと腕に力がこめられ

私の顔は自然とこうちゃんの胸に押し付けられる。




「七海の心の傷を治せるのは、傷を作った元彼。

・・・俺じゃない。」



独り言のように、自分自身に言い聞かせてるように、こうちゃんはつぶやく。


「もっと早く、七海に出会いたかった。
もし、俺のほうが早かったら・・・」



それ以上、こうちゃんの言葉は続かなかった。

涙がじんわりと、こうちゃんの服にしみこんでいく。



「送るよ。」

すっと体を離され、目に入ったこうちゃんはいつもの笑顔だった。
< 144 / 184 >

この作品をシェア

pagetop