調べの記憶〜春宮秘話〜

主人は側を通った給仕の少女に何か指示しながら首をかしげた。


「二年と少し前だな。あたしゃ、あんたが来るのを待ってたんだから、間違いない」


 主人は先ほどの少女が運んできた果汁酒の水割りを、シャルムに手渡した。


 グラスと主人の顔を見比べて、シャルムは初めて微笑んだ。


「覚えていたのか…… 」


 じっと探るような視線をおくっていた主人は、途端に満足そうに笑った。


シャルムがゆっくりとグラスに口をつけるのを見ながら、彼は店の中心近くにある席を示した。


「当たり前さね。あんたがいつもそれを飲むのも、店の真ん中の席を陣取るのも忘れられるもんかい」


 主人の声を背中に聞きながら、シャルムは席へと向かった。


少し顔を伏せて、潤んだ瞳を隠すようにしながら……。





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