調べの記憶〜春宮秘話〜

 シャルムは弦を爪弾いて、調律を始めた。


場違いなほど澄んだ音色が、騒然としていた酒場の中に響く。


細く微かな音は不思議な力を秘めていた。


耳にしたものの魂をゆさぶる様なその響きに、ざわめきは潮が引くようにと静まって行き。


 ついに、シャルムが調律が終えると、彼は客たちの視線を一身に浴びていた。


彼は平然と周囲を見回し、そしておもむろに立ち上がると一礼した。


「私はシャルム・レス。ご覧の通り、しがない竪琴弾きです。今日この日に皆様と出会えたのも、何か縁というもの。しばし私のつたない技を披露することをお許しください」


 低い旋律のような声だった。




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