調べの記憶〜春宮秘話〜


この街は、活気に溢れている。


 彼は、視線をめぐらせながら、改めてそう思った。


 春の到来によりずいぶんと暖かくなってきたものの、夜が訪れればやはり肌寒い季節。


風が重々しい外套と、白いものが混じりはじめた彼の黒い髪を、ふうわりと揺らした。


その風が運んできたのだろう。


さわやかな若葉の香りに、彼は口元を微かにゆるめ、脇に抱えていた大きな袋を軽く叩いた。




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