飛翔-KODOU-
『壱護、こいつが紹介したいって言っとった女の子。'わたる'やでよ。』
『こんばんは』
わたると言うその女は、今時珍しい黒髪に薄化粧の清純そうな感じだった。
『あ、こんばんは』
挨拶を返すと、わたるはニコリと笑い返してきた。愛想のいい可愛らしい子だった。
『じゃあ飯行くか。どこ行く??壱護、何食いたいん??』
『俺ぁ何でもええよ。腹減ったからガッツリいけるのがええけどな。』
『中華は??ここら辺に出来たよね、24時間営業の中華料理屋さん』
わたるが元気よく話に入ってきた。
『ほな、そうしようや。』
俺もそれに話を合わせた。はじめて顔を合わせてまだ10分経つか経たないかなのに、わたるは直ぐに俺の心に入ってきた。
『わたるも単車乗りやぞ』
威風が言った。
『そうなん!?』
かなり驚いた。見た目からは到底想像の出来ない事だった。威風の単車の横に止まっていた単車は、わたるの物だったらしい。
『何よ威風、別にいいでしょ。そんな事』
わたるの話し方はどこか訛っていて、新鮮だ。
料理屋に着いて、俺達はひとしきり話した。威風とわたるは、仕事場で出会ったそうだ。威風は鉄筋屋に勤めている。つまりわたるも鉄筋工と言うことになる。
『凄いやな、女で鉄筋工か』
感心してしまった。
『壱護は鳶やってんのや。将来的には極道かぁ??』
威風がそう言って茶化した。すると、途端にわたるの表情が変わった。
『極道入るの??』
険しい表情で、俺に問うてきた。
『分からんよ。スカウトかかってるだけの話で』
『馬鹿言ってんじゃないよ』
一瞬誰が喋ったのか分からなかった。だけど、今し方俺を一喝したのは紛れもなく、わたるだった。
『普通に働きゃいいんだよ。やめときな、極道なんて』
烏龍茶の入ったグラスをストローで混ぜながらわたるは言った。