飛翔-KODOU-
その話が出た事で、楽しかった食事の席は一気に白けてしまった。

食事が済んだのは午前1時を回っていた。季節は冬、夜空が高く星が綺麗だ。俺は、わたると携帯の番号を交換しいつでも連絡が取れるようになった。さっきの険しい表情のわたるはどこにもおらず、空を見上げてニコニコしているわたるだけがいた。

『コーヒー買ってくるわ』

と言って威風はさっきのコンビニまで戻っていった。

『さっきはゴメンね』

突然、空を見上げながらわたるが口を開いた。

『うん??』

『偉そうな事言っちゃって』

さっきの話の事らしい。

『いや、いいよ。俺も甘かったし…気にせんといてな』

俺がそう言うと、わたるは少しだけ自分の事を話した。

わたるは富山県出身で、威風や俺と同じ歳から非行に走った。親は母親だけしかおらず、その母親も水商売に溺れて恋に落ちた客と、わたるを残して蒸発してしまった。その悲しみを晴らすが如く、わたるの非行っぷりはヒートアップしていき気が付いたら施設に送られていた。


『大変やったんな。わたるも』

どこか自分と重なる所があって、溜め息をついてしまった。父ちゃんは蒸発こそしないものの、居ても居なくても同じ様なものだ…

『壱護には、何か話せちゃったよ』

照れくさそうに、わたるは笑った。

『いや…俺でいいなら、いつでも話聞くわい』

『ありがとう』

『威風まだかな』

『遅いね』

俺達の夜はそうやって静かに過ぎていった。
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