飛翔-KODOU-
利芳は偶に、ドキッとするような事を言う。よく人を見ている証拠なんだろうが、唐突すぎて驚いている。利芳の今回の質問には俺は答えなかった。自分でも知らない内に、俺は心の底から喜んでいた。わたるに出会えた現実を。だから、とてもとても穏やかな、嬉しそうな顔をしていたみたいだ。その後、利芳と無言でコーヒーを飲んだ。真っ暗なリビングに朝日が差してきたのは、6時を回ってからの話だ。



7時過ぎ、父ちゃんの声で目が覚めた。整備士の父ちゃんは、いつもと同じ作業服を着て仏頂面で朝食をとっていた。

『おはよう』

自分でも驚いた。一体何ヶ月振りだろうか。いや、何年と言っても大袈裟じゃない。俺は俺の口から、突発的に父ちゃんに'おはよう'と言う一言を放っていた。利芳がカウンターの向こうで驚いて目を丸くしている。父ちゃんは…俺の声を無視して無言で右手を、すっとあげた。…これだから、父ちゃんは嫌いだ。やっぱり俺は父ちゃんが嫌いだ。なのに胸の中は温かかった。それ以上に何か無く、父ちゃんは仕事に出ていった。利芳も慌ただしく制服に着替えて、煙草を加えて笑顔で'行ってきます'と言って学校へ出ていった。休みなのは俺だけだ。
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