Drop Piece
月明かりに照らされて、青白く輝く…あいつがいた。
『お前…』
少し睨んでやっても、何とも思わないらしく、無表情で俺を見る。
その空っぽな瞳は『行けば?』と言っている。
『行って、自分から目逸らして、逃げたら?』…そう言っている。
『逃げてなんかねぇよ!俺は進むために…っ!!』
……嘘だ。
病院という名の鳥かごにいると、怪我を…翼がもがれたことを認めなきゃいけないから。
だから、“逃げ出そうとした”。
本当に弱いのは……俺だ。
『お前はどんぐらいここにいんだよ?』
それならお前はどのぐらい耐えたんだよ。
挑戦的な視線を向けると、冷え冷えとした視線が返ってきた。
そして右手を全て、左手の人差し指だけ広げた。
『ろ…く…年…?』
あいつはくるりときびすをかえし元来た道を帰っていった。
手のひらを強く握る。
『……』
窓から差し込む明かりだけ二羽の堕ちた鳥たちを見つめていた。
暗やみをしばらく見つめる。
─ゴン
「いっ…っ!」
……は?
「カットー!光ちゃん!?」
照明を当てると廊下に踞る人物。
「ごめ…なさい。暗くて見えなくて…壁に…」
現場が爆笑の渦に包まれる。