白銀の景色に、シルエット。
「何が起こる…」


 頼正は珍しく不安げに呟いた。

 妖や化生の類ではあるまい。それであれば陰陽師が動くはずだ。しかし、彼は注意しろと言って去っただけだ。

 いや、待て。もし陰陽師にも分からぬ状態だとすればどうだ。そして陰陽師の言った失せものの相が、何か重要な事を指しているとしたらば。

 そう思い、頼正は顔面蒼白になる。

 その次の瞬間。


「左近衛府少将」


 馴染みのある声がした。頼正は少し安堵し、ゆっくりと振り向いた。

 昔からの馴染みである男が颯爽と登場する。


「左衛門督様」


 従四位、左衛門督。名を、藤原幸継という。

 去年まで左衛門佐で頼正と同じ正五位であったが、出世して頼正は先を越されてしまった。

 しかし頼正も、もうじき中将に昇格するであろうと噂されている。

 位の違いこそあれど、親戚であり兄弟のように育った二人は仲睦まじい。


「今日はお前も宿直か、頼正」

「ああ」

「そうか。お疲れ」

「督ほどではないさ」

「馬鹿言うな。上に行けば上に行くほど楽になるものだ」

「ハハハ」


 頼正の不安は幸継によって薄れ、口許を緩めた。

 昔からそうだ。頼正が不安に襲われた時は常に、傍らに幸継の姿があった。


「待宵の君とはどうだ」


 唐突な幸継の質問に、心なしか頼正の顔が赤い。

 幸継はにやりと笑い、腕を組む。


「その様子だと、上手くいってるようだな。結婚は考えていないのか? 俺達は互いにもう二十四だ」

「いずれはするさ。今はまだ待宵姫を娶れるだけの地位を築いていない。左近衛府大将様はお許しにならないだろう」

「全く真面目過ぎる。大将殿は二人の仲を認めているだろうに。いつまでもそう言ってると、別の男に取られるぞ。中納言様と並ぶ家柄の娘だからな」
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