地球最後の24時間
 眼下に広がる京都の街並みには寺院や神社、仏塔がちらほらと見える。ここから亜紀の住む街、そして俺の生まれ育った福岡まではあまりにも遠い。

 しかし……

(俺はもう迷わない。もし迷ったらあの時と同じになっちまう!)

 素早くクローゼットを開け、並んで掛けられたスーツを押し退けると、その奥に畳んである黒い皮のライダーズパンツと皮ジャンを取り出した。

 久しぶりに履いたそれは、ウエストがややきつくなっている。強引にファスナーを締めると上着を羽織った。

 セルフのスタンドがあれば給油は出来るだろう。財布をポケットに押し込み、時計をはめ、一応携帯も拾い上げる。そしてローボードの引き出しを開けると、小さな箱を取り出した。

 その箱を手にするだけで、追憶と愛情、そして後悔が胸を満たし、息苦しいほどの感情の波が俺を包み込む。

(俺はお前をまだ……)

 もう五年もはめていないエンゲージリング。とっくにそれは意味の無いものとなっていた。昔はいつも薬指に光っていたのに。
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