スタッカート


ズキズキする頭。

空気の薄い、慣れない場所。


私は満面の笑顔でそういうヒナに、自分がここで苦しいだなんて言うのはいけないと思い、無理に笑顔を作った。


カタン、と小さな物音がして前に目をむける。



目の前に「あの子」がいた。



あらためてきちんと立って前をみると、私とその子の距離は本当に近かった。手を伸ばせば触れられる。


…実はヒナの言った「キレイな歌声」という言葉で、私は勝手に女の子のボーカルを想像していたが、私の目の前に立つ「その子」は紛れもなく男の子だった。


マイクの高さを調節したり、メンバーと何か話をしている彼の姿を、ぼんやりと見つめる。


きれいな黒髪。


前髪が目を隠して、顔はあまり見えない。


目の前にいる私の視線に気付いたのか、横を向いていた彼の顔がこちらに向けられる。


一瞬、前髪の間から少しだけのぞく鋭い瞳と目が合い、私はとっさに下を向いた。


…何故だろう。

胸が、ざわつく。


「トキ、はじめていいか?」

彼の隣で、四角くて大きい箱のような機械をいじっていたメンバーの一人が、彼に向かって言う。


「……ああ」


俯いた顔の頭上、初めて聞く彼の声は、冷たい響きがした。




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