スタッカート
佐伯はそこでふと私のほうを見、すぐに気まずげに視線を逸らしぽつりと零した。
「トキのことは、前から知っていたんだ。……やくざの息子だって」
…やくざ?
目を見開く私と、再びこちらに向けられた佐伯の視線がぶつかる。
佐伯は表情を歪めてきゅっと唇を結び、ゆっくりと口を開いた。
「本当にやくざだったかどうかはわからねえけど、団地の住民は皆、あの家族のことは恐れてた。何しでかすかわからねえって。
俺らみたいな子供も、あの家族にはなるべく近づくなって近所の人に言われてたんだ。
……だから余計に、アイツは悪人にしか見えなかった。」
―妹を誘拐したのはお前かって、そう言ってきて―
トキの言葉が、蘇る。
やくざ。
近寄るな。
トキは、そうやっていつも「ひとり」だったのだろうか。
胸の奥が、冷たくなった。
佐伯はまたひとつ息を吐いて続けた。
「妹を連れて帰って、きつく言ったんだ。もう一人で外に出るなって。特に夜は駄目だって……それなのに、妹は俺の言葉なんかすべて無視して、俺が学校で家に居ないときは必ず、外に出ていくようになったんだ」