スタッカート


私は、周りの人がよく聞いているようなJ−POPやロックといったものをほとんど聞かないですごしてきた。


クラシック以外の音楽に興味が持てず、移動中のバスの中できくのも、普段家できくのもクラシックだけだ。

ヒナに、オススメだからと周りで流行っているらしいバンドやグループのCDを貸してもらったこともあるけれど、私はそれを音だと認識するだけで、これの何に感動するのか、どこをかっこいいと思うのか、どうしても理解することができなかった。


もちろんライブなんて、一度も行った事が無い。

私は自分の部屋にどっしりとかまえるグランドピアノに手を置いて、小さくため息をついた。

「ライブか…」

人混みは苦手。息苦しくてくらくらしてしまう。暗い場所なら尚更不安になる。

トラウマなのかな、と心の中でつぶやく。

たくさんの人、真っ暗な場所。


「いつかきっと乗り越えられる」

ヒナがずっと前に言っていた言葉が、頭に響いた。

そして、それと一緒にさっきの必死な顔のヒナを思い出す。


−どうしてあんなにまで私に「その子」の声をきかせたいんだろう?−



ヒナとは10年以上の付き合いだけれど、今回ばかりは何を考えているのか全く分からなかった。



そして、気付けば約束の土曜日を迎えていた。





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