スタッカート
振り返らなくたって、今自分の背後に立っているのが誰かなんてことは分かっていた。
分かっていたから、振り返ることができなかった。
きっと、物凄い形相で。
凄まじいオーラを放っていて。
それにいきなり真正面で向き合うなんて恐ろしすぎて、少しの間でもいいから心の準備というものが必要で。
私は深呼吸をして、瞳をギュッと閉じて勢いよく背後に振り返った。
そのまま体を90度に折り曲げ頭を下げる。
きちんと目をみて、謝らなきゃ。
上半身を起こして、恐る恐る伏せていた目を開ける。
制服のシャツのボタンが見え、顎先が見えた。
真正面から彼の顔を見る。
「ごめんなさ―」
そこまでは、言えた。
言えたのだけれど。
バタン!!
背後から扉を乱暴に開ける音が聞こえ、物凄い力で腕を引っ張られて
―…一瞬にして、私は軽音部の部室から出された。
「…痛い!!」
腕にめりめりと食い込む強い力に声をあげ痛みに俯くと、顎先を掴まれて無理矢理上を向かされる。
目に入ってきたのは、息がかかりそうなくらい近くにあるトキの顔。
―その
射抜くような、瞳。
「……来るなっつっただろ」