つま先立ちの恋
それは一瞬の出来事。
あまりにも自然な仕草であまりにも当たり前のようにそうされて、私は何が起こったのかすぐに理解できなかった。それによく見えなかったのもある。だけど確かに長い指の先で明人さんが私の唇の端をすくい上げるように撫でた。

背筋をネズミか何かが駆け上がって行くような針のような衝撃が走る。

明人さんはどこまでも、どこまでも笑顔のままそんな私を見下ろして言った。

「お弁当つけて、どこに行くのかな、灯歌チャンは。」



………………心臓が止まった。



そして同時に、どうしてなのか泣きたくなった。自分でもよくわからないけど。すごくすごく泣きたくなった。



その時、


「お前はどこまで見境がないんだ」


この声は……!!


「子どもをからかって遊ぶのも、その辺にしておけ」


この、皮肉たっぷりにトゲのある話し方をするのは、


「本気にさせたらどう責任を取るつもりだ」

「………冬彦サン。」

そう。フーしかいない、よね。

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