東京エトランゼ~通りすがりの恋物語~
でも、ここであたしが怒って、彼女の機嫌を損ねたら、うまくいくものもいかなくなると思ったあたしは、じっとガマンで笑顔を引きつらせながら彼女にこう言った。
「じゃ、近いうちにロムに直接コクらせるから、ちゃんと返事を考えといてね」
「分かった」
それだけ言うと、英語の問題集のほうに目を向けるキクチ・ヨーコ。
“恋のキューピットって、なんて損な役回りなんだろう…”とあたしは思った。
こんなに苦労してがんばってるのに、幸せになるのは自分じゃない。ラブラブでアッツアツの幸せ状態になれるのは、あくまで自分以外の他人の二人だし。
けど、だけど……
冬の寒さを耐えて、忍んで、乗り越えて、春にサクラの花が咲くように、ここはロムに笑顔の花を咲かせるためにも、あたしがガマンしなっくっちゃ。
キーン、コーン、カーン、コーン…♪
3限目の授業が終わると、次は移動教室ということで、理科室を目指し、あたしは廊下をロムと肩を並べて歩いていた。