【短編集】僕達の夏
「本降りになっちゃったな…」
「そーだねぇー」





ザァザァと鳴り響く土砂降りを背景に行われる風理との呑気な会話をBGMに、僕は風理の姿を目に焼き付け、水彩画用の画用紙に鉛筆を走らせる。

そろそろ下書きは終わる、帰ったら色塗りに入ろう。


ここに通うようになって4日目。
此処にも雨が降るんだと言う事に少し驚いた。

此処は、なんだか外の世界とは違う感じがしてたから。






「…なんか良い事あった?」
「へ?」

顔を上げると、風理が自分の膝の上に頭をもたげながらこっちを見ていた。
相変わらず、その不思議な光を放つ群青色の瞳は見惚れる程に美しい。


「特には…変わりなかったけど。なんで?」

「ちょっと嬉しそうな感じだったから。」



頬が緩んでたんだろうか?

自分の頬に手をあてている僕を見て風理は「雰囲気が」と付け足して笑った。

それを聞いて僕も何となく笑った。



そして、唐突に聞いて欲しくなった。風理の瞳にはそういう力があるんだろうか?

いつの間にか、僕はずっと頭をこびりついて離れないその思念を告白していた。
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