【短編集】僕達の夏
そんな事を考えた矢先、店内に軽やかな呼び鈴の音が響いた。

カランカラン…



その音に反応を見せたのは、首を巡らせて出入口の方に視線を投げた私だけ。

マスターは変わらずグラスを拭いていたし、リリーは特に反応しないでお茶を飲んでいた。



入って来たのは、私とあまり歳の変わらなそうな青年。
真っ黒な髪と、目のすぐ上まである長めの前髪、その下のキツめの目が印象強い青年だった。

青年は戸惑い気味に店内を見渡し、唯一視線を向けていた私と目が合った。

(あ、やべっ)



私はとっさに猛烈に顔を逸らしグネグネと鉛筆ののたくったスケッチブックに視線を戻した。


…いや、別に何もやばくはない。
でもなんか話しかけられてもなー、とか思ったので。
マスターがそのうち声かけるでしょ。店主なんだし。多分。


「いらっしゃい」
「…えっ?あ…どうも」


ほぅらね。
二日目にしてこの店の常連気取りな私。良いんじゃない?ありあり。
何がありかとか聞かないで下さい。ノリなんで。


「何じろじろ見てんのよ!」
「えぇっ!?あの…こっこの子」
「ドールが喋ってるくらいでぐだぐだ言ってんじゃないわよ!」

あー、噛み付かれてる噛み付かれてる。
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