【短編集】僕達の夏
「そんな事言ったら主人公だって誰かからしてみたら悪役になりえちゃうわけだしさーようは考えようでしょー?………………おっと」




ここまで好きに喋って、注がれる視線に気が付き我に返った。
うわー知ったような口きいちゃったよ。恥ずかしー。

「なんであんたが言うのよ」
「いやーなんか今思いついたもんで」

なんだか理不尽な感じでリリーに責められる私をほっといて、青年はぶつくさと独り言に没頭している。



「そうか…主人公さえも見方によっては悪役になりえるんだ。ならその逆も…」



そう呟きマスターの煎れた珈琲を一口飲んだ。


「物語は、世界を正しく書くだけが答えではないのではないでしょうか?」


マスターの言葉に、青年は顔を上げる。
リリーが青年を振り返りつっけんどんに続ける。




「吸収した感性を一つの作品に全部詰め込んだからって良い作品になるわけじゃないんじゃないの?」






そう、ようは絞り込む必要があるのだ。
その点では青年も私と同じだな、なんて内心でひとりごちてみる。
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