【短編集】僕達の夏
しばらく黙っていた青年は、急に電気が入ったみたいに顔をあげ温くなった珈琲を一気に飲み干すと、千円札を置いて店内から走り去って行った。

来た時は控めになった呼び鈴の音が乱暴に店内に鳴り響く。


「バッカねーあの子」

一連の流れに呆然としていた私の後ろで、リリーが彼の置いて行った千円札をひらひらと振る。
なんのことを指すのかいまいちわからずにいると、マスターがにっこりと話し出した。

「我々は人の社会サイクルから少し外れた存在。紙幣での支払いは意味がないんですよ」




…うーわ。
なんかさらっとファンタジーな事おっしゃったよ今。
まぁでも、なんか納得出来る。
此処には、そんなファンタジーな理屈を納得させるだけの雰囲気があった。



悩み事がわかるマスター

喋るドール

悩みを持った人しか訪れない、この喫茶店。


「じゃーぁー…何ならアレなんですか?」

「何を糧にしているか、ですか?」


肯定の意思表示に首を縦に振る。
マスターはにっこり微笑みながら続ける。


「我々はあなた方が悩みから開放された時のエネルギーを糧とするんですよ」




うー…ん。

色々とわからないところがあるけど…もう何がわからないのかすら朧げだからまぁいっか!
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