【短編集】僕達の夏
「なんだ。狐につままれたような顔をしてるぞ?」
実際、化かされたような気分だった。
空は夕日、地は紅い彼岸花に覆われた紅い世界。
それらを縦に二分するかのごときヒグラシは悠然と僕の正面に立っている。
写真で見た父の面影すら残さないその姿に、なんだか妙な気分だけが纏わり付く。
その表情は影になっていてよく見えない。
これと言って会話が思いつかなかったので、ヒグラシの横まで歩いて行く。
隣に立つと、ちょうどそこから先は彼岸花も途切れ河になっていた。
…まるで赤のフィルターがかかっているような、赤い世界。
「気がおかしくなりそうだ」
「向こうの奴はたいていしばらくここにいれば気が狂う」
そう、最初の僕のように。