【短編集】僕達の夏




「ヒグラシ、花言葉って知ってる?」


今更父として接する事が躊躇われたために結局"ヒグラシ"として扱う事にした。


「花に意味を持たせるやつか?」

「うん、そう。
彼岸花の花言葉は"あなたを想う"なんだ」




僕はゆっくり辺りを見回す。










「ここには一体どれだけの人々の想いが咲いてるんだろうね」





僕が呟くようにそう言うと、ヒグラシはあまり興味がなさそうに言った。



「答のない問いだな」




手近にあったその花に触れる。
小さな花が唐笠の骨みたいに周囲へ向かって咲くその花には、確かに生きている感触がした。


「僕、戻るよ」



何気なく言い放った僕にヒグラシが驚いたのは顔を見なくてもわかった。



「戻り方を知らんだろうに」

「方法を考える」

「実の母親がいるのに何故…」



ざわざわと彼岸花が揺れる。
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