【短編集】僕達の夏
振り返ると、ヒグラシはその整った顔を怪訝そうに歪めていた。



「僕は好奇心で君について来たけど」



僕の中で何かが急激に成長するような錯覚を覚える。
骨がキシキシと軋む。

少し緩かった制服が少しきつくなった。


ここに対応してふわふわしていた僕の中の色んなものが、次々と形を定めていく。




「向こうには僕を心配している人達がいる」


生みの親でなくても。


「それはそいつの都合だろう?」



悪意のカケラもないその問いかけに、少し、顔が綻んだ。



相手を想うのも、相手の為に尽くすのも、確かに皆突き詰めればそれらは個人のエゴなのかもしれない。







しかしそれも、


"突き詰めれば"

の、話。







「僕は曖昧な世界で生きて行きたいんだ」




















ヒグラシは、きょとんとした顔で僕を見ている。


突如、僕の意識が、急激に何かに引っ張られる感覚に襲われた。
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