蝶々∞まりえ
ぬくもり
白熱灯の明かりが目に優しくうつる。
湯気でくぐもったガラス戸を開けると、浴槽に使っているまりえがこちらに顔を向けた。
『寒いから早く閉めて入っておいで』
さっきまでの思考を洗い流したくてお湯を身体にぶつけるように浴びた。
『あはははは、こっちにもお湯かかってきちゃう』
『泡、まだ背中についてるよ、そんなに激しく浴びるから逆にかかってないよ~』
そう、まりえは何も変わっていない。
まりえを背中越しに抱き包むと、洗った髪の香りが、心地よく湯船の熱と共に頭をもたげる。
身体を拭く間に何かが失われる気がして、熱を帯びたまりえの身体を抱き上げる。
今なら理解できる。
そういう気がした。
かすかな物音で意識が戻ってきた。
瞬きの合間に入ってくる蛍光灯がまぶしくて、再び目を閉じる。
『まだ眠るの?』
まりえが何かいいたそうに寄り添ってきた。
『どこか、そうだな、高台の公園までいってみようか?』
抱いて気づいた予感を振り払うように大きな声になっているのが自分でわかった。
まりえは離れようとしている。
そういう話はベッドの上で聞きたくない。
些細な抵抗だった。
まりえがピンクのショールをふわりと肩に巻く。
途中よったコンビニでホットのお茶と、お互い好きなポテトチップスを買って車を走らせる。
『ポテトチップス何味買った?』
『コンソメ』
『コンソメかよ~』
『うす塩の気分だった?』
『いや、しょうゆ』
本当はコンソメだ!
コンソメだけれど、そういう何もかもつながって分かり合えていることが今は苦しくて、くだらないうそをつかせる。