『私も歩けばイケメンにあたる♪』

けれど、予想した衝撃も痛みもなく、
なんだか心地よい拘束と、においを感じた。


男の人の・・・
におい。


あれ?
落ちてない?


そっと目を開けると、私の腰には誰かの手が回されていて、
私はその広い肩幅にすっぽりとくるまれていた。

視線を上げると、あきれたような双眸が私を見つめている。


「お前、ばかだろ。

後ろ向きに階段落ちたら、
怪我じゃすまねえぜ?

それとも、頭打って、もうちょっとオリコウサン
になりたかったのか?」


「わ、私は、
お前じゃありません!
ひかりって名前があります!」


それだけ言うのが精一杯だ。
顔が真っ赤になっていくのが、自分でもわかった。
心臓は、うるさく収縮を繰り返す。

彼の胸を押して、腕から抜けようとすると、一気に畳み掛けられた。


「お前さ、ほんと、
礼儀知らねえのな。

トイレ覗いといて悲鳴あげて逃げてさ、

今度は階段落ちそうなとこ、助けてもらって、
礼も言わずに逃げるわけ。」


ううぅ、
私は言葉に詰まった。

礼儀知らずは、どっちよ!
と喉元まで出かかったが、
確かに私にも非がある。


それに、この状況・・


多分、お礼を言うまで放してもらえない、
そんな気がした。

抱きしめられている状態から早く抜け出したくて、
不本意だけどお礼を言った。


「ありがとうございます。」


心の中では、

馬鹿はあんただよ!
あんたに助けられるなら、階段から落ちたほうがマシだったよ!
とりあえず、お礼は言うけど、覚えておきなさいよ!

などと、叫んでいたからだろう。

私は引きつり笑いをしていたんだと思う。

彼、水沼清は、

もう我慢できないという感じで、
声を出して笑い出した。


「すっげ~不細工な顔。
お前、ばかな上にブスなんて、救いようがないな。

面白い女!」










< 25 / 462 >

この作品をシェア

pagetop